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春陽文庫にご用心

 それで春陽堂書店の江戸川乱歩文庫なんですけど、乱歩作品引用するんやったら春陽文庫は避けたほがよろしおまっせ、というおはなしをいたします。

 去年の夏のことにおじゃりました。

 京都へ行ったのね。

 名張人外境ブログ:京都感傷旅行(2017年7月31日)

 そういえば、上掲エントリの冒頭に出てくる「知人の遺稿集」、いまだに出版されておらんがな。

 そろそろこっちが逝きそうじゃのに。

 それはそれとして、上掲エントリにあるとおり昨年7月30日、京都の書店で筒井清忠さんの中公文庫『帝都復興の時代』を購入いたしました。

 この本に出てくる乱歩作品の引用は『屋根裏の散歩者』『D坂の殺人事件』『陰獣』とすべて春陽文庫に拠っていて、『D坂の殺人事件』に収められた「恐ろしき錯誤」にはこんな言及がなされています。

乱歩の関東大震災後の第一作『恐ろしき錯誤』(『新青年』1923年12月号)は、妻を火事で失った男の復讐(失敗)譚であり、火事が重要な要素となっているところに情景描写といい関東大震災の影響が如実に感じられるが、発表時期からしても「天譴論」がしきりに言われている時期にふさわしい作品であった。


 しかし、「恐ろしき錯誤」の初出末尾には、

 ──一二、六、二九──

 と脱稿の日付が書かれています。

 つまりこれは9月1日の関東大震災以前にできあがっていた作品であって、この日付は創元推理文庫あたりではそのまま生かされていますし、光文社文庫では本文にはないものの巻末の「解題」に注記されています。

 だいたいが関東大震災当日、乱歩は東京ではなく大阪に住んでいて、『探偵小説四十年』には床屋さんから出たときにぐらぐら来たと書いてあります。

 むろん『探偵小説四十年』には、お察しのとおり「恐ろしき錯誤」の執筆時期や舞台裏も明かされております。

 とはいうものの、この『帝都復興の時代』のような著作では、「恐ろしき錯誤」を引用するのにいちいち初出誌を確認する必要はありませんし、もとより作者の自伝に目を通さねばならぬ道理などまったくなく、しかもそもそもテキストを論述に都合がいいように援用するのはごく当たり前のことであるといっていいでしょう。

 したがいまして、著者を批難するわけでは全然ないことをここにはっきりお断りしたうえで記しますけど、初出誌の発行時期だけを根拠として「恐ろしき錯誤」の描写に「火事が重要な要素となっているところに情景描写といい関東大震災の影響が如実に感じられる」などと決めつけた記述を目のあたりにいたしますと、ああ、なんだか不注意でひとりよがりな勇み足だなあ、と私は思ってしまいます。

 不注意なのは著者のみならず版元もそうであって、というのも、「恐ろしき錯誤」は「新青年」の大正12・1923年11月号に掲載された作品なんですけど、『帝都復興の時代』ではそれが「1923年12月号」とされています。

 これはなぜかというと、引用の底本となった春陽文庫の「恐ろしき錯誤」の末尾に、

 (『新青年』大正十二年十二月号)

 と初出誌のデータが誤って記載されていたからです。

 しかも、びっくりなさっちゃいけませんぜ、三年前に出たリニューアル版『D坂の殺人事件』所収の「恐ろしき錯誤」もやっぱ末尾に、

 (「新青年」大正十二年十二月号)

 と明記してくれてあったりなんかするわけです。

 ええ加減にせんかあッ。

 春陽堂書店はしっかり仕事したらんかあッ。

 春陽堂書店は出版界の名張市かあッ。

 というわけで、乱歩作品引用するんやったら春陽文庫は避けたほがよろしおまっせ、というおはなしでした。

 手ぬぐいつくっとる場合かあッ。
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中 相作

Naka Shosaku

Author:Naka Shosaku
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